2018年01月22日

どう伝えるか。

1月22日に通常国会が召集される。この年頭の会見で首相は、本年中に憲法改正案を提出する意向を示しているから、今年はいよいよ憲法9条の改正が国会で本格的に議論されるようになるだろう。気になるのは、こうした世論を二分するテーマに対する情報が、どう市民に伝わるか、だ。私は、秘密保護法の時も共謀罪の時も、弁護士会主催のシンポジウムや街頭活動を企画し、実施する側にいた。それぞれの催しには多くの市民が参加してくれてもいるし、新聞も報道してくれた。ところが、法案が国会を通った後の講演などでは、必ず、「こんなに危険なことなら、もっと早く知らせて欲しかった。」という感想が聞かれるのだ。
こうした事柄で思い起こすのは、英国のEU離脱だ。お正月に読んだ『メディア不信』(林香里 岩波新書)には、離脱派のキャンペーンが嘘であることが国民投票後に次々に判明し、本当のことが報道されていれば、離脱に投票などはしなかったのに、というメディアに対する国民の不信と、離脱派、残留派の主張の報道の「バランス」を重視するあまり、議論の内実を掘り下げる努力を怠った、とされるへの批判が記されている。確かに、単純に両論を報道するだけでは、嘘の主張も、「嘘」という評価を除いた一つの主張と位置付けることになり、嘘か真実かの判断は市民が行わざるを得ない。結局、嘘を信じたあなたが悪いのよ、ということになる。一方、我が国では、選挙期間はもとより、重要な政治的な争点に対するテレビ報道は、ほとんどが「両論併記」型だ。ところが、そうした報道に対して後日「議論の内実を掘り下げる努力を怠った」との批判が行われることは、まずない。
さて、憲法改正である。同書では、日本における市民の、メディアへの関心の低さも指摘されている。メディアに対する関心の低さは、社会的問題に対する関心の低さにつながることは明らかだ。こうした状況のもと、9条改正の問題点をどう伝えるかということについて、少なくとも憲法改正に反対する側は、真剣に考えなければならないだろう。林さんは、ソーシャルメディアを用いた言論空間をつくることを提言する。マスメディアにだけ頼るという今までの情報発信の手段以外に何があるか。情報をどう伝えるか、ということに向かい合うことが求められている。
(2018.1.22  新海聡)
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