東京都、大阪府をはじめとする7都府県に、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」にもとづく緊急事態宣言が出された。グローバリズムがこれだけ発達した時代に、世界中でこれほどまでにウイルスが蔓延し、経済が停滞したことは、これまで人類が経験したことのないものだろう。緊急事態宣言が遅すぎた、という声が聞こえる。任意の協力要請であることに対する不満と、このままだと商売が立ちゆかない、という悲痛な叫びも。クラスターの原因となった学生の在籍する大学には脅迫電話もかかって来たという。様々なフェイクニュースがネットを飛び交う。ウイルスのもたらす災厄への恐怖と見えない将来への不安が根底にある。こうした中で、ドイツの保健相は国民に向けて「恐怖がもたらすものは、ウイルスそのものよりも大きくなる可能性がある。冷静になれば課題を克服できる。」というメッセージを3月4日に発した(朝日新聞2020年3月6日朝刊)。この時点でのドイツの感染者数は350人弱。その後の感染者の爆発的拡大を見るとき、この目線のたしかさに感服せざるを得ない。と同時に、この言葉は、ますます重要度を増しているように思う。ただ、残念ながら、我が国の首相や政権幹部にはこうした言葉も気概も見ることができない。就任以降、ほとんど記者会見をせず、したとしても抽象的な理念を一方的に述べることに終始する安部首相と、連日、事実をベースとした記者会見を行っているクオモニューヨーク州知事の姿勢を比べれば、本当に困難な状況に立ち向かおうとする政治家の能力と勇気の差は明らかだ。
しかし、政治家の発言が信頼に値しないからこそ、我々は事実を正しく見て、偏見やフェイクに惑わされないようにする必要がある。ウイルスを正しく怖れ、フェイクに惑わされないぞ、という気概すら感じさせるナショナルジオグラフィックのサイト(https://natgeo.nikkeibp.co.jp)など、良心的な報道も無料で配信されている。まずは、緊急事態宣言を権力暴走のキッカケとしない冷静な目と、差別や分断を助長することを背後に隠したフェイクから自由であり続けることを、私を含め皆、肝に命じたい。(2020.4.8 新海聡)